「育てるしかくの里がえり」

「育てるしかくの里がえり」

2018年1月15日(月)〜21日(日)まで、京都造形芸術大学で展示をしていました。博士の学位審査と合わせての展示だったのでみなさんに告知ができず、すみませんでした。展示期間の一週間ずーっと、珍しくぴりっとしておりました。アーカイブとして、ここに残しておきますね。

 

この展示は 2013 年 3 月に発表した「育てるしかく」のか ばんの約 5 年間の成長を追ったもので、メンテナンスの新しい価値の提案・実践・検証の記録です。「育てるしかく」 の使用者 25 人にご協力頂き、必要なかばんにはメンテナンスを加え、再展示しました。

 

自身の草木染めかばんブランド「haru nomura」では、 かばんの定期的なメンテナンス「かばんの健康診断」を行っています。かばんが使用者の手に渡ってしばらくたつと、 使用者の持ち方の癖や生活スタイルによって、擦り切れる、 色褪せるという傷みや変化を生じます。生まれる傷みや変 化は、使う人の数だけあります。それぞれにメンテナンス していくうちに、機能の回復だけでないメンテナンスを求 められるようになりました。そこである人には記憶を上書 きするように別の色で染め直しを、ある人には傷を逆に目 立たせてしまうような装飾を施しました。ものが使用者に 渡ったその先にも創造の余地がありました。

 

そもそもメンテナンスという言葉は、破損したものの機 能の回復・維持や、資料の復元・保存という意味で捉えま すが、その語源である maintain(良い状態を維持する)と いう言葉をひもとくと、ラテン語由来の「main(手)」と「tain(保つ)」が合わさったもので、この名詞形が日本語 でよく使うメンテナンス(maintenance)になりました。 そのことを理解すると、メンテナンスとは、物の状態をよ りよく保つために手作業で行うさまざまな対処全般だと、 広く捉えても良いと思われます。

 

また、メンテナンスを繰り返すことで変化していく「かばんの造形」「制作者と使用者との関係性」にも着目しました。かばんに よっては、4・5 回のメンテナンスを繰り返し原型がわからなくなっています。さらにかばんの造形の変化だけでな く、やりとりを通じて、使用者との結びつきもだんだん強 くなっている実感があります。メンテナンスを重ねることによって生まれるそれらの変化を「メンテナンスループ」 と名付けました。

 

「育てるしかくの里がえり」を通して、作品はつくって 終わりではなく使用者(受容者)との共同制作が継続していくこと、メンテナンスには機能の回復・維持を超えた創造的価値が潜んでいること、メンテナンスを繰り返すこと で唯一無二の造形が生まれていくことを伝えられたらと思います。